園の下の力持ち

2021.11.01
“しつけ”は誰がするものか

家庭の教育力が乏しいといわれて久しい日本では、1960年頃に急増したとされる核家族化がその大きな要因として挙げられます。複数世代での複合的な暮らしでは起こり得なかった、家事・子育てにおける母親の負担が大きくなる家庭的問題、更に子どもに対して過保護・過干渉になりやすい家族構成、それに輪をかけるように共働き世帯の増加がその問題をより複雑にしていると考えられます。
※この問題は、お仕事をしながら子育てしている家庭だけを指しているのではありません。我が家も共働きの核家族です。

先日2年ぶりに全国の園長・設置者研修が対面で行われ、そこで記念講演をされた小児科医の菊池信太朗医師がお話になっていたことも家庭教育についてのことでした。“教育現場がしつけの場となっている”という俄かには信じたくない、それでいてこれまで実感していた現状を、直球でパワーポイントの資料の上段に掲げてのお話は実に考えさせられるものでした。

まず子どもたちが起きていて家庭で過ごしている時間の表(下記菊池先生のパワーポイントを再現)を見た時、いかに乳幼児施設で過ごす現代の子どもたちの園での生活時間が長いかがよくわかると思います。一日の3分の2から、多い場合は4分の3程度も親と離れて園で過ごし、一週間の5分の7または6分の7を園で過ごしていると考えると、子どもの生活に占める園での生活時間はかなりのものです。下記の資料でいう、黒塗りの部分が園で過ごす時間です。

小学生になれば、ある程度自分で行動範囲を徐々に広げ、お友達と遊んだり自分で習い事に行ったり、時間の使い方自体を自分で考えたりできるようになるため、親と子の時間というものも当然徐々に少なくなっていくものだと思います。一方で、乳幼児期という、保護者との愛着形成(=将来社会で人を信頼したりする基礎となるもの)の重要な時期に、一緒に過ごすことのできる時間が少ないということは即ち、残念ながら家庭教育を行うことのできる時間にも限りが出るということになります。もちろん少ない時間の中で多くの工夫を凝らして家庭教育が不足しないように心がけていらっしゃるご家庭も沢山あるとは思いますが、どれだけ素晴らしい教育方針と体制を整えた園であっても、保護者と子どもの濃密な時間で獲得される様々な要素を超えることはほんの僅かな例外を除いて残念ながらまずあり得ません。

脱いだ服の畳み方、食事のマナー、誰かが話している時に耳を傾けて話を聞くこと等、生活の随所で必要とされる本来家庭教育が基礎となる“正しい所作・振る舞い”を指導することまで教育施設が担うことが求められる。場合によっては「〇〇幼稚園出身の子どもって落ち着きがなく、人の話が聞けない」などとまで言われることも。これって本当に乳幼児施設が担う役割で、それがうまくできない子どもたちがいる場合に園の教育力を理由にするのが正しいのでしょうか。

昔はその辺の知らないおっちゃんやおばちゃんでさえも、間違ったことをしていたら怒ってくれた過干渉なムラ社会とは今は明らかに違います。でも、やっぱり本当に大切な「美しい身のこなし=躾(しつけ)」は、教育機関がその辺の知らないおっちゃんおばちゃん程度の役割を担ったとしても、各家庭でまずは努力が必要です。家庭教育の基礎の上に園での教育活動を積み上げていく。どんな家族構成・働き方だったとしても、その連携があってこその子育ての充実であり、正しい認識だと思います。時代は複雑ですが、そんな気持ちを各家庭が大切にしていただけたら、子どもたちの成長もより加速するような気がします。

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会