学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会
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2008年度『輪になって』より
幼児教育は元々一人ひとりの育ちをみとる「個人内評価」
平成になった頃、日本の教育の基本を指し示す法律である「幼稚園教育要領」や「小学校学習指導要領」が従来のそれから大きく変化しました。小学校の具体的変化は、学ぶ内容を整理統合し少なくする事と、生活と学びをできるだけ結びつけて学びを促す「生活科や総合」という教科の新設です。それまでの教育の評価は「相対評価」でした。相対評価というのは、簡単に言うとクラスの中で何番目という母集団の中でその子の順番を決める評価で、偏差値がその代表格です。その評価の仕方が、絶対評価へと変更になりました。学習指導要領ではその学年で教える内容が決められています。その内容について、その子どもが期間内にどのくらい達成したかを測るのが、絶対評価の方法です。ですから、相対評価では、5段階評価の最高である5は、全体の7%位しか割り当てられませんが、絶対評価では、クラスの80%の子どもが内容を良く理解していれば、5段階評価で言うところの5が割り当てられることも可能になります。
幼児教育の教育評価は「相対」でもなく、「絶対」でもなく「個人内評価」です。一人の子どもが、ある期間に何がどのように育ったのかを評価します。幼児教育には教える内容が幼稚園教育要領によって決められていません。各園毎に決められる保育目標と教育課程を基本として、指導計画を立案し、毎日繰り広げられる生活や遊びの中で、保育活動を実践します。一人一人を観察する中で、子どもの内面的な育ち、主に「心情、意欲、態度の育ち」を評価しています。評価の観点を並べてみるとこの様になります。
*言葉の育ち、身体の育ち、着脱衣、排泄、食事などの基本的な生活の習慣の獲得
*面白がる
*人が好きになるー嫌いな人がいる
*思いやりが育つー思いやられる経験と異年齢の子どもとのつきあい
*力を合わせるー相手の力を見きることができるようになる
*人との関係性がわかり、多様性が受け入れられる
*人との間合いがとれる、阿吽(アウン)の呼吸
*自分の心に感じていることを身体や絵画、唄などで伸びやかに表現し楽しむ
*希望を持って生きるー今日がダメでも明日がある
*真善美の価値観が芽生えるー親の次に意味ある他人である保育者の感性が問われる
*誇りや自尊心が芽生えるー自分を信じる力=自信の醸成
*納得し我慢することができる
*信頼する好きな人となら苦しさつらさに耐えられる
幼児教育はこのような評価観ですから、しょうがいがあるなしにかかわらず、それぞれの子どものその期間の育ちを見取ることで保育が成立します。また、正解が教える側にある小学校以降の教育とは違って、子ども一人一人に感じ方考え方の違いがあって当然という、子ども側になり込む教育が保育なのです。しかし、保護者も含めて、大人の中にある評価観はどうしても人と比べる相対評価に偏りがちとなります。ほとんどの子どもが鉄棒ができるのにうちの子だけ、とか、みんな部屋に入ったのにうちの子だけ外で遊んでいる、とか、みんな食べているのにうちの子だけ偏食で食べることができないなど、どうしても相対評価である、他の子どもと比べるような評価観が頭をよぎります。もちろん、年長の卒園の段階では、社会生活を営む上での「態度」の育ちが求められます。例えば、人の話を聞く時にはその人の方を注目して喋らない、という「態度」の形成です。このことが身に付いていることを前提に、小学校以降の50分ほどの教科教育が成り立つことは事実ですが、3年間を使って、ゆっくりと育ちあがるのを見守ります。
ー保育という営みー
保育という営みは「子どもの善さと可能性の発見」がテーマです。私たちは焦らず、子ども達を急がせず、見守り育む事を大切にするわけがそのあたりにあります。植物を育てることに似ています。良質の土と水分、栄養を与えることが大切ですが、最も大切なことは、植える時期と育ち上がりを見守る姿勢です。工業品のように、徹夜して頑張ればできあがるものではありません。そのような中で、様々なしょうがいを持つ子どもも、その子らしく(同じようにではなく)共に育つことが期待されます。
現実の保育の中では、専門知識や人員的な問題も含め様々な困難があることも事実です。同質の子ども集団の方が、効率的な指導がしやすいのは事実です。大正時代の詩人、金子みすずの有名な詩に「私と小鳥と鈴と」があります。その詩の最後の言葉に「みんなちがって、みんないい」と謳われます。まさしく多様性、違っていることが大切にされるのが、保育という営みであり、それを追求するのが、教育の醍醐味だと思います。