周一ぶつぶつ

2011.01.23
これからも夢

今年度の「輪になって」の編集担当から、上記の題で書いて欲しいとの依頼がありました。10代や20代の頃に、あなたの夢はと聞かれればそれなりに荒唐無稽な夢を語ることも出来たでしょうが、この年齢になると、老い先そんなに時間があるわけではないことも関係してか、頭を抱えてしまい、なかなか原稿に向き合うことが出来ないでいました。

毎日の生活で犬の散歩や車を運転しているとき、飛行機や新幹線に乗っているときなどにいつも頭に浮かぶのは、子どもたちがこれから向かうであろう人生が前途洋々としたものであって欲しい、その為の乳幼児期の生活がどのようであるのがベターなのかを毎日考えざるをえない自分がいます。「これからの夢」ではなく「これからも夢」という思いに至りました。そこでおさらいになるかもしれませんが、再度整理してみたいと思います。
まず、子どもたちが毎日の大半を過ごす家庭のあり方です。その人の価値観は、その人と長い時間過ごすモデルである近しい人に大きな影響を受けます。ほとんどの場合家庭では両親、きょうだいになります。大阪大学の社会教育学者、志水宏吉さんは学力の面から家庭の問題を考察されています。家庭で育てなければならないまず最初の感情は自尊感情です。
■自尊感情の育ちと家庭の環境
自尊感情は自分はここに存在していて良いんだという実感である「自己肯定感」と自分なりに頑張ればそこそこ出来、報われるであろうという「自己効力感」で構成されていると言います。これをしっかり育てることが、家庭生活の役割です。この基礎に支えられるように小学校中学年くらいまでに家庭での学習習慣が成立すると言われます。
学力の全国調査の結果では、秋田・富山・福井県が上位で、沖縄・高知県や大阪府が低位でした。この県ごとの分析で見えてきたものは1:離婚率が低い2:持ち家率が高い3:不登校率が低い県が学力的に優位な結果です。まず1ですが、これは分かりやすいです。家庭が不安定であれば悲しいですし学習どころではありません。家族とつながっているという実感を得ることは難しいです。2の場合は地方都市でもあり三世代が同居している割合が高く、親族や近隣社会のネットワークが強い事が特徴です。3の不登校率ですが、不登校自体の原因は様々な事案が絡み合っていて、一概には言えないと思うのですが、相対的には学校や教師の価値が軽んじられ、教師と子どもの絆が揺らいでいることが大きな要素として浮かび上がってきています。
この原稿の主題である「夢」から言うと、何とか子どもの育つ家庭が良くなればいいなあと考え、様々な方法を用いて家庭に働きかけることを大切にしてきましたが、その意味は決定的に大きな影響を子どもに及ぼすことが判っているからなのです。毎学期クラス懇談会を実施しているのも、情報交換と共に、大きな家族的な子育て文化が創り出され、協同で子どもを見守ることが出来れば素敵だなと思うからです。
■幼稚園や保育園そして学校の役割
次に幼稚園や保育園の役割を考えてみましょう。近年の知見で、乳児を含め、子ども達は非常に有能で、能動的に物事に関わり、優れた学び手であることが判明しています。日本では「エデュケーション」という英語の言葉を「教育」と訳されました。だいぶ前のことで良く分かりませんが、私は残念な訳だと思います。英語におけるエデュケーションという言葉の語源は、「子どもの良さと可能性を引き出すこと」なんだと専門家からお聞きしたことがあります。まさしく、あけぼのの保育の課題は、家庭で大切に育てられ、自己肯定感を身につけようとしている子どもたちに対して、その子の良さと可能性を見いだし、保護者と共にそれを大切にしながら、伸びることができるように環境を整え、「生きる意欲」を喚起することにつきると言えます。前述した学力にも勿論関係しますが、それに留まらず、良く生きることに真っ正面から向き合う人間に育って欲しいと願い努力しています。
先ほどの志水さんの本に、「力のある学校8つの要素=Together」が記載されています。
(1)気持ちのそろった教職員集団=Teachers
(2)戦略的で柔軟な学校運営=Organization
(3)豊かなつながりを生み出す生活指導=Guidance
(4)すべての子どもの学びを支える学習指導=Effective teaching
(5)共に育つ地域・校種間連携=Tics
(6)双方向的な家庭との関わり=Home-school link
(7)安心して学べる学校環境=Environment
(8)前向きで活動的な学校文化=Rich school culture
のすべての頭文字を取ってTogether
上記の内容は、学校について書かれていますが、幼稚園・保育園で考えても全く同義です。
上記のことからも、人との関係が双方向性で関係していることが、とても重要なことが分かります。小さい子どもとのキャッチボールをお考え頂ければ良く分かります。子どもの投げるボールは、あっちこっちに投げられます。大人が拾いに行って、子どもが受け取りやすいところに投げ返すと、子どもはボール遊びを楽しみます。反対に大人は子どもの上(二階)で、子どもは下(一階)に位置する上下の関係でキャッチボールを始めると、大人はボールを離すだけで子どもの頭上にボールは到達しますが、子どもの下から投げあげたボールは大人に届くことは難しいでしょう。キャッチボールはつまらない遊びとなり、すぐに終わってしまいます。お互い楽しむためには、横並びの関係が大切なことが分かるでしょう。勿論、大人が子どもの奴隷のようになっていることと横並びの双方向関係とは違うことはお解り頂けると思います。
そこで難しいのが、横並びの関係であると、子どもはなかなか言うことを聞かないと言うことです。昔話や子どもを寝かしつけるときに歌われる子守歌などの中にとても残酷な歌詞や、寝ない子は鬼婆に食われてしまう等の脅しが含まれていますが、そうでもしないと、子どもはなかなか言うことを聞かないからなのでしょう。脅したり、体力や暴力を使わないで躾をしたり言いつけを守らせたりするのは、相当根気が必要です。私はよく、「大人の大人性が問われる」という言葉を使いますが、まさしく、親側に修行を強いることでもあります。有り難いことに、この修行の結果は、親を、真の大人へと育て上げることに効果があります。他人ではなく気の置けない親子関係であるからこそ、難しい修行になります。
その様な意味から、子どもを育てる営みは、とても価値あることで、子どもが生まれたことに感謝しなければならないのでしょう。
「これからも私の夢」は、子どもたちを中心に据えて、その様なことを共に考え会える保護者と、教職員集団で構成される施設づくりです。
参考文献:「学力を育てる」志水宏吉著 岩波新書 2005.11.18

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会