学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会
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乳幼児期の子どもがほとんどの時間を過ごすのは家庭と園での生活です。この時間に子どもたちは様々な社会事象や、善悪の判断、いたわりの心や愛他心を獲得します。先日、リテラシーや語彙の獲得について調べ物をしていたところ「学力格差は幼児期から始まるか?」という論文を見つけました。教育社会学研究第100集(2007)内田伸子さんの研究成果です。
いくつかの調査研究の結論が書かれていて興味深く読みました。
子どもが通う園の教育方針
A:子ども中心の保育や自由遊びの時間が長い園
B:教師主導型で一斉保育が多い園
AとBを比較したところ、Aの保育を実施する園の子どもの語彙得点が高いこと。Bは低いことが判明しました。また杉原(2012)らの調査では、体操教室やバレエ、ダンス教室に通っている子や体操の時間を設けている園に通っている子どもの運動能力は低く、自由に園庭を駆け回っている園の子どもの能力が高いことが明らかになっています。やはり、子どもに時間や空間が任せられ主体的な行動が促されることが、運動好きにさせるためには必要なようです。そのことが、語彙にも優位差をもたらします。
家庭などのしつけ方法の違いによっても、読み書きのリテラシーや語彙数に差が出ます。「共有型しつけ」と呼ばれる、子どもの人格を大切にし、ふれあいや楽しい経験を子どもと共有するしつけ方を大切にされている家庭では、団らんや親子そして夫婦の会話も大切にされます。したがって子どもの語彙得点も高いようです。「強制型しつけ」と呼ばれる、子どもは白紙で生まれてくる、しつけるのは親の役割、罰を与えるのは当たり前というような、トップダウン型のガミガミいう禁止や指示が多い家庭は語彙得点も低く家庭の蔵書も少ないという結果となっています。 家庭の経済状況にも若干の差は出るようですが、所得が低い家庭でも、共有型のしつけを大切にしている家庭の子は、語彙やリテラシーなどにはほとんど差が見られないといううれしい結果も明らかにされています。言い換えるならば、子どもの自己決定が尊重される、対等で民主的な家庭生活の実現が、子どもの学力を保障するとも言えます。
このように、子どもの育つ家庭の関りや園の教育方針によって、乳幼児期の語彙形成や文字数のリテラシーに違いが出ることが明らかになったわけですが、その後の学力テストにも影響することが判明しています。幼児期の語彙力は、小学校の国語学力と強い関連があり、語彙の豊富さが学力基盤力であることも明らかになりました。
親や大人のそばで生活する10歳くらいまでのしつけや家族の生活の質が、子どもの語彙形成に大きく影響します。家庭生活の質を整えることが、子どもの将来にわたる学力基盤力を作るのです。子どもはあっという間に10歳の壁を超えます。
現在、小学校への接続が議論されています。私たちはこのような知見を丁寧に理解しながら乳幼児教育の環境を整えることに心血を注がなければなりません。
参考文献:教育社会学研究第100集(2007)
「学力格差は幼児期から始まるか?-経済格差を超える要因の検討」内田伸子