学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会
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2022年後半から幼稚園や認定こども園、保育所における虐待やバスの置き去り事件が報道され、暗澹たる気持ちになりました。日本の保育、幼児教育制度が本格的に法整備されたのは第2次世界大戦後昭和20年代からで、約70年の時間が経過しています。その間、制度の改正や保育環境も微調整が実施されてきましたが、諸外国と比較して保育時間や一人の保育者が観る子どもの数は圧倒的に多いのが現状です。保育標準時間が11時間や保育環境も3歳未満児の20人未満の保育施設は園庭がなくても認可されるなど、かえって状況は複雑化し悪化しているとも言えます。そのような状況においても、多くの保育担当者たちは研修に励み、保育室や園庭の環境をより豊かなものにしようと懸命に努力してきました。与えられた環境のなかで精一杯努力を続けてきました。
日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准しています。生きる権利、育つ権利、護られる権利、参加する権利です。子どもの権利を守るという考え方の一番低位に位置付けられるのは「子どもの命や健康、成長発達が脅かされないこと」です。この度の事件は、最低の権利擁護もできなかったという事件なのです。
この事件以降、行政からは人権擁護のためのチェックリストが配信され、各保育者が記入し、園としてのリーダーチャートに現すよう求められています。質問項目は(1)子ども一人ひとりの人格を尊重しないかかわり(2)物事を強要するようなかかわり・脅迫的な言葉かけ(3)罰を与える・乱暴なかかわり(4)一人ひとりの子どもの育ちや家庭の環境を考慮しないかかわり(5)差別的なかかわりです。自分が園児に対してこのようなかかわりをしていると回答した人はどのくらいいるのでしょうか。
例えば静かにしてほしい時に騒いでいる園児がいたとします。最初は「静かに」と促すように言葉をかけますが、それでも収まらないときに「部屋から出なさい!」と声を荒げることはないのでしょうか?2~3歳児クラスで部屋をとび出す子がいるときに鍵をかけて出られないようにすることはないのでしょうか?このように考えると、現実にはこの度の事件につながる言動が私たちの現場に潜在的にあると思われませんか。虐待と呼ぶにははばかられるけれども、友田さんは不適切な保育や養育を「マルトリートメント」と表現するよう促しておられます。
時代は「令和の日本型学校教育」を目指すため、新しい常識が提案されています。主体的、対話的で深い学びを実現するために、個別発達を前提とした従前の知識・技能の詰め込みではなく、それぞれの資質・能力が育っていくことを願う能動的な教育に変化しようとしています。まさに、平成元年に大改訂された幼稚園教育要領の哲学と同調するのです。
良識は変化しませんが常識は変化するものです。過去の常識から抜け出し、新しい時代を生きる子どもたちに対して、人権が守られ、自分を大切にし、民主的な市民が育つ暖かな教育を創造しましょう。そのためには、教育条件が豊かになる配置基準の達成が不可欠なのです。
参考文献:「子どもの脳を傷つける親たち」友田明美著 NHK出版新書