園の下の力持ち

2019.04.27
ご飯を食べない子どもたち

 「家では何でも残さず食べさせているのに、園ではスキキライを認めるのか」

保護者の方からこのようなご意見をいただきました。

実際子どもたち、とくに1号認定児の幼児に偏食傾向が強いことは、この園に限らず見られることです。ただ一方で、同じ幼児でも2号認定児(または他の保育園の子どもたち)はもりもりなんでも食べる傾向が強いのも特徴的な気がします。別にこれは偏見ではなく、私の知る限り実際にそのような子どもたちがこれまで多かったという経験談です。園での生活時間が長く、もしかすると体力の限りに園生活を送っていることで、常におなかがペコペコなのかもしれません。ただ、理由がそれだけであるようには思えません。

多くのご家庭で当てはまることかもしれませんが、家でも外食でも子どもも大人同様の味の濃いものを食べている傾向はありませんか?人間は「味蕾(みらい)」と呼ばれるブツブツとした器官で味をキャッチします。子どもの味覚は大人よりも敏感で、味覚の形成時期である幼少期に濃い味のものを食べすぎることで、濃い味の物しか美味しいと感じなくなってしまうと言われています。それは将来的に肥満や生活習慣病などにつながるリスクを上げることになります。

園で提供されるごはんは、出汁から作るこの時期の子どもたちにふさわしい薄味のもので、使用される食材もこれまで子どもたちにご家庭で積極的に使用してきたものとは少し違うものかもしれません。ひじき、高野豆腐、小松菜等、古くから和食で親しまれてきた、少し苦みがあるような食材も旬に合わせて園ごはんで積極的に使用されています。もちろん子どもたちが苦手とする「苦み」を、できる限り食べやすくするための創意工夫は、常にキッチンのスタッフが様々な方法で模索しています。

一方で、実際には家庭で普通に食べているようなものでも、園では食べたくない、残したいと伝える姿も見られます。これは、本当に食べたくない場合と、保育者に対する子どもたちからの駆け引き、保育者に対するお試し行動で起こる二つの側面があるように思います。ここで出会った先生は、私たちのどこまでを許容してくれる人なのか。そんなことを、何かを残したいと伝えることで探っていることも考えられます。あけぼのでは、頭ごなしに「全部食べなさい、食べないと遊びに行ってはいけません」という上から目線の伝え方ではなく、一人一人に個別の声掛けをしながら、子ども一人一人の想いを受け取り、対話し、言葉の裏側の気持ちに寄り添いたいと思います。ただ、全部キレイに食べられた時の達成感は、もちろんみんなに味わってもらいたいとも思います。

昨年、私が小さな劇場で観た「カレーライスを一から作る」という映画に強く感動し、あけぼの幼稚園の創立記念講演の一環として保護者の方に向けて放映しました。武蔵野美術大学の教授で、冒険家の関野吉晴氏のゼミでの取り組みを映画化したドキュメンタリーで、一年をかけて、化学肥料を使わずにお皿も、肉も、野菜も、塩も、香辛料も全て自分たちで作ってそれを食べるという内容です。ご覧いただいた方々から、沢山の共感と多くの感想をいただきました。

「生きるために食べる。命を食べる。」

このことを映画を通して考えさせられました。日本や韓国の農薬の使用量と、発達障害の子どもの数が比例していることはご存知でしょうか。知らず知らずに我々が摂取している野菜から、農薬が体内に蓄積され、それが新しい命に少なからず影響を与えているのかもしれません。そのような避けにくい現状でも、これから新たに子どもたちの口に入るものが、安心で安全なものであるべきという想いはますます強くなり、園でのごはんは無農薬・低農薬食材の導入を随時進めています。本来夏には夏の、冬には冬のものしか食べられないものがあるという「当たり前」が、スーパーに行けば一年中欲しいものが手に入る昨今。これはあるべき現実と相反します。この現状をどのように考えていくか。家庭と園で今後も子どもたちの食について考えていきたいと思います。まずは保育の中で屋上菜園を活用し、子どもたちと無農薬野菜の栽培をスタートしていきます。

 

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会