園の下の力持ち

2019.06.25
「学ぶ」と「真似る」

先の記事でも触れたロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキーが提唱した「最近接発達領域(ZPD)」あるいは「発達の最近接領域」は、自分ができることよりも少し上回ったことなどに触れ、その刺激によって子どもたちのある種「底力」を掻き立て、今までよりも少し上のことができるようになることを表しています。あけぼのほりえこども園では、異年齢の関りが自然と多くなるよう、意図的に保育室を学年ごとに固めずに混ぜて配置していることで、この効果がより大きくなるようにしています。

そもそもの話にはなりますが、「学ぶ」という言葉の意味は何でしょうか。辞書を引いてみると、下記の4つが書かれていました。

①教えを受けて知識や技芸を身につける。

②勉強する。学問をする。 「よく-・びよく遊べ」

③ 経験を通して知識や知恵を得る。わかる。

④ まねる

参考:三省堂 大辞林

では、幼児期における「学び」とは、ここからどう読み解けるかということです。先の記事にも『幼児教育における「教育」とは何か』のタイトルで記載しましたが、幼児期における学びは、早期教育というものではなく、子どもたち自身の主体的な遊びの中から「経験を通して知識や知恵を得る。わかる」ことであり、「まねる」という行為を通して経験されるものでもあるということでした。つまりそれは文字通り、幼児期における「学び」にも当てはまると言えます。

例えば、園庭の土管に上りたいけれど登れない子どもがいるとします。そこで園庭に置かれたビールケースを一つ、土管の前に持ってきます。一つ持ってきて登ってみようとするものの、一段の高さではどうしても土管の上に登り切れない。そこで、もう一つ積み上げて二段にして、二段目まで登れば土管の上に登れる高さを作る。ここまではよく見られる光景で、子どもたちの思考力の芽生えであると言えます。ここからが問題で、二段に積み重ねたビールケースの上にいざ登ろうとすると、どうもバランスが悪い。足を一段目と二段目の間にかけると、ビールケースが一段だった時には感じなかった不安定さを感じます。一段目の端に重心が行くので当然です。もちろん三段、四段と続ければ更にそのグラグラ感は増します。どの程度の重心の掛け方で、どこに足をかけて二段目が崩れずにその上に登れるかは、誰かに教わってわかるわけではなく、何度もトライ&エラーを繰り返してみて初めて分かる、「経験を通して知識や知恵を得る。わかる」まさに言葉の意味そのものです。試行錯誤の末、二段積みの二段目に直接登るのは難しそうだと感じ、他の子どもがどうやっているかを観察してみる。すると少し大きな子どもが二段に積んだビールケースのその手前にもう一つビールケースを置いている。そして階段状に積みあがったビールケースをスイスイと登っていく…。じっと見つめたその光景を脳裏に焼き付け、その子どもたちがいなくなった後で、自分でも同じように階段状に積んで、簡単に登れることがわかる。これは「まねる」行為からもたらされた経験(達成感)であり、他児の経験を参考にしながら自らの体験を通して獲得した知恵です。常に経験を通して様々な形で学び、工夫する思考力が培われているのです。

 

 

 

 

 

大人にしてみると、ただ遊んでいるように見える光景も、子どもたちの育ちには欠かすことのできないきっかけで溢れています。それこそが幼児期における大切な「学び」であり、「学ぶ」という言葉本来の意味に含まれている所以なのかもしれませんね。

 

 

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会