園の下の力持ち

2019.10.02
幼児教育・保育の無償化

遂にこの日本でも幼児教育・保育の無償化が201910月より開始されました。長きに亘ってこの幼児教育の無償化(または義務教育化)を訴え続けてきた幼児教育界の先人たちの悲願が遂に現実となりました。実はこれまでOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、幼児教育が唯一無償化されていなかったのは、ここ日本だけでした。

「幼児教育の質が生涯に亘る」ということは近年多くの研究で具体的に検証され、今ではそれが当たり前であるという見方が主流となっています。それに加えて2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームス・ヘックマン教授の著書『幼児教育の経済学』の中で示されている「幼児期の教育への公的投資はその後の教育への公的投資よりも経済効果が大きくなる」という主張は、世界中に大きな影響をもたらしました。そして日本もその流れに沿う形で、この度の無償化が実現されました。

このことが子育て世代に大きな影響を及ぼし、出生率の上昇も期待される一方で、今回の幼児教育・保育の無償化にはまだ大きな懸念も残されています。

社会の構造が変化し男女ともに仕事をしながら家庭を作っていくこと、経済的に夫婦共に働かなければならないことは時代の流れの中で不可避のものではありますが、これまで我々が実現に向けて訴えていたことは「幼児教育の無償化」であり、「幼児教育・保育の無償化」とは考え方が異なっているからです。もともと我々が考えていたのは「質の高い幼児教育を全ての子どもたちに」、という考え方であって、保護者と共に過ごすことが集団生活以上に大切な意味を持つ幼児期において、より長い長時間保育を促してしまうような仕組みではなかったからです。教育時間(9時~14時)部分の無償化と、保育時間(7時~19時)部分までの無償化を一括りにしてしまうことで、いずれの場合でも無償なのであれば、そんなにハードに働かなくても取れる就労認定(月48時間からの就労で取得可能)を取って、預けられる時間は子どもを預けてしまおうという発想になるのはある意味で当たり前のことかもしれません。そしてそのことがフルタイムで働く保護者にとっては保育所入所の倍率を上げ、待機児童が増え、保育所が足りない、という構造に繋がるのです。更に、そのことで待機児童対策として保育所の開設のための規制を緩め、園庭を持たない小規模保育園が乱立し、学校法人や社会福祉法人といった保育所運営をこれまでも行ってきた法人とは違う株式会社が参入し、保育の質がおざなりにされていく事態に繋がるのです。

本来保育を必要とするからこそ利用すべき保育施設において、今回の無償化の範囲は極めて大きな社会問題を引き起こす構造になっていると言えます。

大阪市は3年前から独自の段階的幼児教育の無償化を実践していた大阪府下では数少ない自治体です。3年前に5歳児(年長)、2年前に4歳児(年中)そして今年度から3歳児(年少)の教育時間(9時~14時)について段階的に無償化を拡大していました。教育時間以降14時~19時の保育料は変わらず発生するものであったため、不必要に保育認定(2号認定)を取得して子どもをできるだけ長く保育施設に預けようという流れにはならない、よく考えられた制度であったように思います。なぜ国としてこの方法を取れなかったのか。

それは、一億総活躍社会を訴える政府の方針が、「とにかく沢山の人に活躍できる社会の仕組みを!」という大義名分の下に、「小さい子どもでも預けてとにかく大人の皆さん働いてもらえないとこれを実現できないのです!」とういことを裏返しているからに他なりません。1億3千万人をきる日本の人口です。乳幼児期に子どもたちが全幅の信頼を置いて時間を過ごすことのできる唯一無二の存在から遠ざけられることを制度上促してしまうような今回の無償化の制度設計は、個人的に非常に残念でなりません。

しかし多くの混乱が予想されるこの制度を、保護者と共に理解を深めながら進めていく他ありません。日本中で多くの問題が発生することが予想されますが、当園での取り組みには、大切にすべき譲れない部分をしっかりと残し、どんな時でも子どもたちが価値の中心にあるよう努めていきたいと思います。

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会