園の下の力持ち

2020.02.14
子どもに英語を習得させたい大人たち

幼児期の習い事のトップ3は、1位:水泳 2位:ピアノ 3位:英語だそうです。

私自身も幼児期に、水泳とピアノを習っていました。水泳の記憶はさほどありませんが、ピアノはとにかく嫌で嫌で…。

習い事でも学校でも同じですが、子ども達が何かに取り組む時、その取り組みが嫌いになっては本来の目的は全く達成されない。卓球少女だった愛ちゃんが泣きながらラリーをしている姿をテレビで見て可哀そうで仕方なかった。卓球が好きなように見えなかった。それでも彼女は卓球を続けてプロになった。心の奥深くでは、彼女は卓球を嫌いにならなかったんだと今になって思います。

保護者の方や子どもを持つ友人から、「どうすれば子どもが英語を喋れるようになりますか」と質問を受けることがあります。中学校から大学まで10年間以上英語を習ってきた人たちが、信じられないほど英語をしゃべることができないのに、子どもの時にこの日本にいて英語が堪能になる可能性は果たしてどのくらいあるでしょうか。週に1,2回程度の英会話や自宅の英語教材に触れ、それ以外の時間は全て別の言語でやり取りする生活の中で、英語が喋れるようになるためにはある種の才能が無ければ不可能だと思います。英語を話せない親に限って、国際社会の中で活躍できるように子どものうちから英語に触れさせて英語を堪能にさせたいと願う傾向が強いように思います。

『伸びる子どもは〇〇がすごい(日経プレミアシリーズ)』の著者で心理学博士の榎本博明氏は、著書の中で次のように書いています。(以下原文ママ)

英語教育の専門家の間では、早く始めた方が英語ができるようになるというのは幻想にすぎず、母語をきちんと習得してからの方が、英語も効果的に習得できるとされているからである。それゆえ、同時通訳の第一人者である鳥飼玖美子など英語教育の専門家の多くは、小学校から英語を学ばせることに反対の姿勢を取ってきた。

認知心理学の観点からしても、母語体系ができていることではじめて、それをもとに外国語がうまく習得できると考えられる。

バイリンガル教育が専門のカナダのトロント大学教授のジム・カミンズも、母語の能力が外国語学習を支えるとしている。トロント在住の日本人小学生を対象としたカミンズたちの研究によれば、母語の読み書き能力をしっかり身につけてからカナダに移住した子どもは、しばらくすると現地の子どもたち並みの読み書き能力を身につけることができる。それに対して、母語をきちんと身につける前の年少児に移住した子どもは、発音はわりとすぐに習得するものの、読み書き能力はなかなか身につかない。

私自身も中学校から大学まで長い時間英語を学んできましたが、大人になればきっと話せるようになると信じてやってきたにもかかわらずちっとも…でした。そんな時、社会人になってからたまたま海外に駐在する機会を得て、その国の共通言語としての英語の習得が切羽詰まった状態でやってきました。恥ずかしながら受験もして大学を出ていたにもかかわらず、一月から十二月までが英語で正しく書けない(大学受験では逆にそんな分かりきったことはことが出題されない)。受験で鍛えた速読力によってメールの文章を読んで素早く理解することができても、相手の言うことは聞き取れない。聞き取れた後で自分の思いを適切に表現することができない。企画開発という職業であったにもかかわらず、自分の英語力や表現力によって自信のあった企画がいくつも没になるなど、とにかく非常に苦労した記憶があります。

それでもある日、英語を聞き取るために必要な「音」を聞き分ける「耳」になり、急にニュースや映画を英語で観てもある程度理解ができるようになったあの日のことは忘れられません。そこに至るまでには、職場や日常生活で英語を使うことはもちろん、家にいるときは常に英語のテレビをつけておく。車での通勤時間でも英語のラジオを流し続ける。24時間英語の海に潜るような努力をして1年半が経った頃だったと思います。

日本語でも同じですが、相手が発した言葉の全てを聞きとっているわけではなく、言語とは何かしらの音を拾って理解しているもので、それが日本語の場合と英語の場合では拾う音の内容が異なっているその異なりを耳が拾えるようになる必要があるように思います。

ただ、忘れてはいけないのはこの時代「英語をしゃべることができる」だけでは夏場にスキー板を持っているのと変わらず、その英語という手段・ツールを使ってどのように自己表現することができるのかが問われます。その自己表現こそ、幼児期に育まれるべき「主体性」「生きる力」「他者と協調する力」「あきらめず継続して取り組む力」などという非認知能力に基づいて発揮されるものです。目に見える認知能力に向かいたくなる気持ちは十分に分かりますが、まずは根っこの教育と呼ばれる幼児期の教育の中で、非認知的な力の育ちに向き合うことができたら、きっと将来子どもは親に感謝するのではないかなと思います。私がそうであるように。

 

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