園の下の力持ち

2021.01.21
『納得と相互理解』

子育てにおいては、親の時間軸と子ども達の時間軸に大きな隔たりがあることは多々あります。一日の生活の流れの中で、親としてどうしても譲れないテンポは、知らず知らずのうちに子ども達を急かすことに繋がります。それは言い換えるなら親の時間軸に子どもを引き込もうとしていると言えます。ただ、これは実際に子育てをしていればしばしば起こることです。

何時に出発しなければ目的地には時間通りにたどり着けない。ここで切り上げさせなければ予定が狂ってくる。日々予定を立てて効率よく生活しようとすればするほど、子ども達の緩やかな時間軸と親の焦りがせめぎ合うことになります。ましてイヤイヤ期の子どもの子育てをしている場合には尚更、口を開けばとりあえず「イヤ」という子どもにうんざりするようなこともあるかもしれません。

ここで気を付けたいのは、親と子が上下の関係であるような意識、子どもが自分の分身であると無意識のうちに考えているような場合がある点です。子どもは親の分身ではありません。子どもなりにも、父親と母親の血を分けた別の人格を持つ人間なので、母または父の思い通りにならないことは当然のことです。それでも自分の血を分けた子どもだから、私の気持ちは簡単に通じると思い込んでしまうのがまた親でもあるように思います。

全ての生活の中で、余裕を持って子どもの時間軸をどっしりと構えて歩み寄り続けることはとてつもない労力と時間がかかります。並大抵の努力では達成できません。ただ、その意識を持つことは、別人格として生を全うしている我が子の人格を尊重し、親と子が互いに対等な立場で物事を考えるスタートになることは間違いありません。

例えば、食事の時間が迫ってきている時に、子どもは一人で黙々と積み木遊びをしていたとします。子どもにとって積み木とは空間認知能力を高め、思い描くイメージを形に変える発想力や想像力、そしてそこに至る手順や工程を頭の中に思い描きながら様々な段取りをして進める表現力といった学びの宝庫です。集中していればしているほど、主体的に試行錯誤を繰り返しながら自らのイメージに近づくように進めていきます。その時に、親である私たちが

「ご飯できたから切り上げて食べて」

と言うことを伝えた時、子ども自身が気持ちをスムーズに切り替えることがどれほど難しいことか想像できるでしょうか。今この瞬間にもスーパーコンピューターの如く自分の知識と経験を脳内でフル活用しながら目の前の積み木に情熱を注いでいたとしたら、親の時間軸から発せられた「ご飯ができたから食べる」という、一見大人なら当たり前に思う行動の変更は、子どもにとっては簡単なことではないはずです。

タイトルの「納得と相互理解」とは、子育てや乳幼児期の育ちにおける大人と子どもにとても大切な要素です。子ども達も親とは違う他人であることを前提に、まずは納得できるようなプロセスを考えてみることが大切です。

「あと10分くらいでご飯ができるから、そろそろ一旦積み木はおしまいにして準備はできるかな。温かいご飯を一緒に食べたいと思っているの。ご飯を食べた後でまた積み木の続きができるように片付けないでそのまま置いておいていいからね。」

もしもこのように先の見通しを含めて伝えたら、4・5歳の子どもになれば先の見通しが見えることである程度理解することができますから、自分のしたい事とこの先の見通しをうまく天秤にかけて「納得」し、気持ちを切り替えることができるかもしれません。もちろんこの言葉がけが万人に通じるわけではなく、それぞれの子どもの性格や特性に合ったものでなければいけませんが、子どもが「納得」するということがどういうことなのかを探ることが、大人と子どもが対等な人格であることを前提に「相互理解」を深めることに繋がっていくと思います。その関係性は、子どもたち自身の自尊心を高め、親と子の関係性を豊かにするとも思います。

こう書きながら、2歳の我が子と私のやり取りを思い返し、恥ずかしながら難しさを感じることも多くあります。できる限り一緒にいるときは我が子の納得できるまでを大切に接していますが、深い納得に至るまでは一苦労のこともよくあります。

例えば小腹が減って食事まではまだ少し時間がある時に、我が子がおやつを食べたいと言う(子どもの気持ち)。美味しいごはんを一緒に食べたいから(親の気持ち)少しだけね(親の気持ち)と2枚組の小さなおせんべいを渡す。食べ終わった我が子が、「もっと」と言う(子どもの気持ち)。「もうすぐご飯だから2枚でおしまいにしておこう(親の気持ち)」と言うと、「イヤぁ!もっと(子どもの気持ち)」と叫ぶ。例えおせんべいを渡す前に「おいしいごはんを一緒に食べたいから、今はこれだけにしてね」と伝えて渡しても、まだまだ先の見通しが持てない2歳児にはこの納得を得るのは難しい。でもおせんべいを空腹が満たされるまで食べ続けたらきっとご飯は食べられない。そんな日常はどこにでもあるのだと思います。

こういう時間を過ごして、少しずつ乳児から幼児へと移り行く中で、親が子を支配し従わせるということではなく、親も子もそれぞれに「納得」しながら、例え小さな子どもに対しても対等な関係を意識して「相互理解」を深めていくことが大切なのだと自分にも言い聞かせています。

園での生活においても、このことは大切にしています。大人の都合を押し付けるのではなく、子ども達の納得のもとに生活をすること。大人から子どもへの声掛けではうまく納得できないシーンも、子ども同士の声掛けであれば納得できるシーンというのも存在します。大人も子どもも対等な存在。相互理解を深めながら、人間味のある子育て時代を楽しみたいですね。

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会