園の下の力持ち

2021.04.17
『動物たちがやってきた』

教育要領に示された就学までに育てたい10の姿の中に、「自然との関わり・生命尊重」という項目があります。様々な仕掛けで他の9つの項目を満たすような保育環境を整えていても、「自然との関わり・生命尊重」に結び付く環境に不可欠なのは動植物の存在だと感じます。そしてこの「生命尊重」ということについては、命を感じるような経験や体験なしにはうまくアプローチができないものであるような印象もあります。

あけぼのほりえこども園は都会の真ん中にあって、いかにこのことをクリアするか建築段階から考え、屋上の空庭には、多くの野草を植え、自然に草花や小さな虫、鳥が集まるような環境を作りました。おかげさまでどこからか運ばれてきた種が芽を出して当初植えていなかった野草も生え、そこには虫が住みはじめ、その虫を探して鳥が飛来する、豊かな生態系を構成するようになっていました。ただ、子どもたちがそこで命の尊さを学ぶには少し課題が大きいとも感じていました。

昨年夏に大量のカブトムシを準備し、園内各クラスに分配しました。それぞれのクラスでお世話をしつつ、愛着を持って育てていたものの、最終的には卵を孵すこともできず全滅しました。また、大量の向日葵を植えたことで信じられない量のカナブンが飛来し、子どもたちの虫取りは専ら蝉取りとカナブン捕獲の夏となりましたが、これまた飼育ケースに入れて試行錯誤するもすぐに死んでしまいました。ダンゴムシやアオムシとの触れ合いもありましたが、これまたすぐに死なせてしまいました。

命の大切さを子どもたちと分かち合いたいと切実に願っているものの、昆虫というもではどうも命の大切さを知るには教材として不足している印象を持ちます。一つ一つの命が大切なことには変わりないのですが、子どもたちの等身大の価値観の中ではどうしてもそれが有効には働いていないのです。腕に飛んできた蚊は勢いよく叩き潰すし、家庭でゴキブリが出たらすかさず駆除することと、目の前にいる虫たちとの命の大きさは格段変わらない。確かに都会の生活の中でも図鑑でしか見ないような“レア”な虫との出会いには興奮するものの、それ以上の段階には進まない、こんな風に感じていました。

動物アレルギー児との兼ね合いもあり、ここ2年中々踏み出せず、水槽で熱帯魚を飼ってまずは様子を見ることにしました。様々な種類の熱帯魚にくぎ付けになる子どもたちを見て、やはり身近に存在しないような動物が園内には必要だと強く再認識し、今年度ついにモルモットを段取りしました。更に、築山から流れ出る水の循環装置もリニューアルしたことで絶えず水を流せるようになったため、池には錦鯉も入れました。

触れあったことのない生き物に触れ、子どもたちの興味関心は一気に高まっています。今はモルモットの名前を決めるため、園内各クラスから出された候補名にシールを貼って投票中。さてどんな名前に落ち着くでしょうか。このまま行けば、れみくんとおんぷちゃんになりそうです。

犬や猫が家にいるような家庭も、このタワーマンションエリアでは実はそう多くなく、生きた動物に触れたことのない子どもたちも多いのが実情です。生きていることが当たり前ではなく、日々のお世話を通してその成長を分かち合い、そして子どもたちの情緒が刺激され、これまで持つことのなかった感情が噴出しているこの瞬間から、新しい気づきが生まれようとしています。新しい園内の子どもたちの様子に、これからますます目が離せません。

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会