園の下の力持ち

2024.08.01
ヒトの子育てが難しいワケ

子どもとの生活を送る多くの人は、毎日が予定通りに進まず、難しさを感じる瞬間に多く出会うと思いますが、一体どうしてこんなにもヒトの子育てが難しいのか。日本の合計特殊出生率が遂に1.2まで低下した今、保護者の方からも子育てについてご相談いただくことも多かったので、保護者向け講演会のテーマにしてお話しするために、我が家の子育ても思い起こしながら色々と考えてみました。
すると、大きく分けて5つの要素がヒトの子育てを複雑で、難しいものにしているのではないかと考えるようになりました。

① 幼児期と成熟期間
ヒトの子どもは出生時に非常に未熟で、長期間にわたり親の保護とケアが必要な状態で生まれてきます。養育者がいなければすぐに命を落とすほど未熟に生まれてくるため、きめ細やかなケアや養育が求められます。更に、生後数年をかけて生存スキル(食べる、歩く、話す等)を身につける必要があり、それら一つ一つを習得するのにも元々未熟に生まれてきているが故に長い時間を要します。その上、ヒトの脳は非常に大きく、完全に成熟するのに時間がかかるため、基本的な生存スキルの次に習得していくべき社会的スキルの習得にも長い期間を要します。つまり自分一人で生きていくための準備期間が長いのです。ヒトの自立が18歳~20歳頃とした場合、ゴリラの自立は6歳~8歳だそうなので、3倍程度長い子育て期間が必要になるということです。

② 知能の高さ
ヒトは他の哺乳類と比較してはるかに高度で複雑な知能を持って社会(共同体)を形成するため、前述の通り多くの知識やスキルを習得する必要があります。文化的背景を含めた言語、社会的規範、道具の使い方など、多くの重要なスキルを身につけるために、それ相応の時間と努力が必要となり、子どもが学ぶ必要のあることの量と複雑さが多いので、親は教育や指導に多大な時間を割く必要が、子育てを難しいものにしている側面もありそうです。

③ 依存関係と愛着形成
未熟な状態で生まれてくる、ということとも通じますが、ヒトの子どもは長い期間にわたって親や家族に依存します。この依存関係は、その関係を丁寧に保つことで乳幼児期に欠かすことのできない「愛着」を築きます。親にとっては継続的且つ丁寧な依存関係への対応が求められていることになります。ただ、そのような関わりが子どもの発達や社会的スキルの習得を助けると信じすぎるあまり、特に一人目の子育てではトイレだって一人で行けなかった、というような保護者の方の声を聴くこともあります。どこまでやればいいのか、どこからは大丈夫なのかというのが分からないということも、子育てを難しい・大変だと感じる要因として考えられそうです。

④ 文化的要素
ヒトの子育てには文化的な要素も大きく影響します。同じ日本人でも関東と関西の人が結婚した場合、恐らくお正月やお盆でさえ、捉え方考え方には違いがあると思いますが、食事・礼儀作法・道徳・宗教・教育観など、多くの文化的価値観や慣習がそれぞれの人の違いとして存在します。そのような中で、子育てにおいてそれぞれの文化に適応するためのスキルや知識を身につける必要もあり、これがまた子育てを難しいと感じさせるものにしているように思います。

⑤ 見通しの持ちにくさ
最も子育てを難しいと感じさせていと個人的に考えるのが「子育ての見通しの持ちにくさ」です。誰でも第一子の子育ては初めての経験なので、当たり前のことですが初めての経験には見通しは持ちにくい。子どもと言えど人間が相手なんだから…私から生まれてきたんだから…と、自分の分身と勘違いして油断しやすい傾向が一定あるのではないかと思います。また、核家族化や共働き家庭の増加で、育児に対する支援が少ない家庭環境や、親自身が長時間労働に従事し、お迎えに来るころにはクタクタで、十分な時間やエネルギーを子育てに割きたくても割けず、疲れていたらちょとしたことも受け止めきれなくてイライラ、しんどいと感じることも子育ての雲行きを悪くするでしょう。現代の子どもが大人になる時に必要な力を育てておいてあげたいと切に願いながら、ではどんな教育環境が良いのか、習い事は何が良いかな…と悩んだり、経済的不安定や不況が続く中で、親は将来的な経済状況に不安を抱え、それが子育ての見通しを難しくしている側面も考えられます。

もちろん子育ての感じ方、置かれた状況は様々ですので、一概にこれら5つのことが当てはまるとは限りませんが、どうせ子育てするのなら、楽しい子育ての方が、大人も子どももハッピーなのにな…と思います。
そこで、今度は子育てを楽しむために必要なことが何かを考えてみました。

① 計画に固執しない
子どもはマイペースなのではなく、子どものスピードで生きています。着替えてねと言われた子どもが、洋服を取りに行ってその帰りに落ちていたおもちゃで遊び始めているのを見て、つい「早く着替えなさい!」と言いたくなりますが、「早く」してほしいのは時間に縛られている大人側の理屈。着替え(子どもの寄り道・気分転換含む)にかけても良い時間を共有したら、子どもも見通しを持って着替えを時間までに終わらせることもできるかもしれませんし、時間が前後することを事前に想定しておくことが、気持ちを楽にする一つです。

② 自分時間を持つ
忙しい家庭ではなかなか難しいこともありますが、自分のための時間をパートナー、友人、家族などの協力を得て持つことは大切だと思います。現代は様々な情報がスマホから入ってきてしまうが故に、子育てだけに向き合っているとおそらく、以前よりもストレスを感じるのではないかと思います。気分転換出来たら、また違った感じ方、見え方に繋がります。

③ 健康的な習慣
これは意外に感じられるかもしれませんが、規則正しい生活が子どもたちに習慣づくと、起きる時間、食べる時間、遊ぶ時間、寝る時間と一定の見通しが生まれます。そうすることで、その日の流れに親としての見通しが持ちやすくなり、スキマ時間で息抜きをする、ということがしやすくなります。毎日寝るのが遅い、起きるのも遅い、登園や仕事にギリギリ、お迎えに行って帰ったら食事の支度、寝不足気味だから子どもの機嫌が悪い、仕事で疲れているから余計にイライラ、やることの波に飲まれそう…という流れは完全に負のサイクルにハマります。早く起こす、早く寝かすから初めてみてはいかがでしょうか。

④ 子どもの成長に焦点
できないことがつい目についてしまうこともあるかもしれませんが、子どもと過ごす時間が限られる現代だからこそ、できるようになったこと、小さな成長に目を向けてみませんか。小さな成長を追いかけながら、日々の成長を喜ぶ姿勢を持つだけで、子育てに対する気持ちも変化すると思います。

⑤ 具体的なゴールが見えることに一緒に取り組む
ただ漠然と一緒に遊ぶことでも悪くないのですが、一緒に料理をしたり、洗濯ものを畳んだり、何か目的やゴールのあるものに一緒に取り組んでみるというのはとても良いことなのではないかと考えます。砂場で遊ぼうと言われて子どもと一緒に遊んでも、最終の出来栄えのイメージは大人とこどもそれぞれ。そうではなくて、具体的なゴールのある遊びやイメージできる終わり方のあるものに取り組むことで、そのゴールに向かって一緒に協力する、できることとできないことを分担する、そのようなやり取りの中で、自然と会話が深まり、互いの存在を認め合う、そんな関係性が強くなると思います。

言葉や頭では分かっていながら、実際にはなかなか難しいのですが、この難しい時代の子育てのヒントに一つでも参考になれば幸いです。

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会