遊びの匠

2020.02.07
ものさしのはなし

さぁさぁ明日は1年の集大成でもある行事【おはなしあそびかい】の日。この1年にクラスで起こった楽しかった出来事や出会った葛藤・気持ちをオリジナルのストーリーにのせて、子ども達が最高の表情を見せてくれること間違いなしの行事です。楽しみ!

さて、一般的な幼稚園では当たり前のように行われる行事ですが、ここ最近は保育施設における行事のあり方について議論されることが多くなってきました。その理由として、今でも多くの保育施設で行事に向かう保育において、子ども側の視点に立った保育実践ではなく、保育者の想いやエゴ、保護者にどう見えるかという見栄えが重視されるなど、子ども達のさながらの生活や気持ちが尊重されず、子ども達を追い込むような保育が展開されることがしばしばあるという保育業界の現状があることからです。本来は子ども達の主体性を大切に保育が展開され、一人ひとりの子ども自身が行事に向かうプロセス(過程)の中でクラスで力を合わせたり、自分なりに表現したり、時には葛藤しながら行事に向き合っていくことが大切なのです。何と言っても、子ども達が力を合わせて物事に取り組む姿は胸が熱くなり感動で涙がちょちょぎれる(そうになる)ことは事実ですが、それが第一義ではないのです。

話は少し変わって、昨年11月に行われた奈良少年刑務所で詩を通して少年少女の更生をサポートする寮美千子さんの講演のお話の中で「刑務所にいる子ども達のほとんどは、“ありのままの自分”を見られていたのではなく、常に【社会のものさし】を通して見られていた子ども達なんです」とおっしゃっていたのが印象的でした。【社会のものさし】とは、例えば学校での成績や、どの学校に進学したのか、足の速さ、もっとひどくなると親が「子どもはこうあるべきだ」という考え方に子どもを当てはめるということを指すようです。

子どもにとって親は絶大な存在です。どんな子どもだってその親が喜ぶ姿をみたいものです。例えば、「発表会でちゃんとできた」、「テストで高得点が取れた」、「自分(親)の行けなかった学校に進学してくれた」、「自分(親)が苦手なことがうまくなりそう」という親の期待に応えようと必死でがんばります。しかし、この時、相互に結ばれている関係は条件的信頼と言い、子ども達が期待に応えれないと感じると一気に崩れ落ちる性質があります。このような状況では、大人が子どもを判断する基準が全て他者との比較や誰か他人の理想との比較になってしまうのです。寮さんは「社会のものさしで測られる環境で得られるのは条件的自信しかありません」と話されました。

 

なぜなら、テストの点も他者と比べれば絶対いつか超えられるし、いわゆる難関校に入れば、上には上がいることに気付きます。足の速さもウサイン・ボルトに出会えば愕然とするでしょう。自分の中の基準ではなく他者との比較が自信の源になっていると、比較した時に自分を越えられ、喪失感から引きこもりや、酷いケースでは犯罪を起こすことになる可能性すらあるというのです。そして、残念なことに奈良刑務所にいる子ども達の多くはこの【社会のものさし】に苦しめられてきたと。

この【社会のものさし】の話を行事に絡めて考えてみると、生まれたての新生児や赤ちゃんはその子の存在そのものが尊いものと感じ無条件に認められる。しかしその後、立って歩けるようになりったり、走れるようになったりすると、大人が子どもの何かが”できる”ことに喜びを感じ、認める傾向にあると私は思います。そして、幼稚園に入園し行事に参加するようになると、その子どもの存在や過程の中で”その子なりにどう取り組んだか”よりも”当日何をしたか、何ができたか”などという視点で子どもを見るようになっていく傾向があるようにも感じます。しかし、この”できる”や”できたから”に評価の視点を置いてしまうと、条件的な自信にしかならないのです。

子どもがうまくできたか、良かったのか、そんなことは他者が認めることではなく、自分が感じること。一番大切なのは、上記したように、”自分なりに取り組めたか”。それと保育者が”子ども達の自分なり”を最大限に引き出せてあげられたか。それが行事を行う上で私達が本当に大切にしていることだと私は思っています。そして、そこで育てられた子ども達はきっと自分のものさしで自分を判断する力を身に付けるでしょう。それが本当の意味での自信(根源的自信とでも言いましょうか)であり、条件的自信とは大きく違うのです。

園長が常々言っている「その日の子どもの姿が100点」その言葉の真意は”できた””できなかった”ではなく、ありのままの子ども達の姿を認めること。そして、それがきっと社会のものさしで育てられる【条件的自信】ではなく自分のものさしでのみ育てられる【根源的自信】なのです。

自分を信じる=自信。揺るぎない自信。

明日、明後日、それぞれの子ども達のありのままの姿に大きな拍手が送られることを祈っています。

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会