遊びの匠

2021.02.03
チェンジというかアップデート

今世界中が未知のウイルスによってまさにパニックに陥っている最中、あけぼのの門を入れば外の世界で大変なことが起きているとは想像もできない、子ども達の清々しい世界が広がっています。

スピードやスリル、さらにはあそびを通じて友達と気持ちをシェアできる喜びを感じる子ども。道具の使い方や用途が違うと言えば違うけど、新たな遊びを創り出す力の育ちを感じます。その後ろには入園したての弟の手をとり不安を消し去ろうとするたくましい年長児の姿。

この年長の子ども達は、園庭に実ったザクロをとり、壁にぶつけて割る。そして、仲間と分け合い「めっちゃあまい!」と笑顔の子ども達。

少し園庭を歩くだけで、全力で日常を繰り広げる子ども達の姿から“大切なこと”や“守らなければいけないこと”そして“忘れてはいけない本質”を再認識させてもらえます。

話は変わり65年以上脈々と続くあけぼのの保育ですが、それはまさに変化と共に歩んできたといっても過言ではないでしょう。例えば、私の祖母である創立者の安家周子の時代は裸保育でした。園内ではもちろんのこと園外でも上半身裸です。現代に置き換えて想像してみましょう。上半身裸の集団が緑地公園までの道を歩いている。ちょっとスパイシー過ぎて想像すらできませんね。

その後、父である現園長の考えもあり薄着保育に切り替わり今に至ります。しかし、よく考えてみるとどの時代でも共通しているのは、子ども達を価値の中心に置き“忘れてはいけない本質”がそこにはあるということでしょうか。過去を否定するのではなく、その過去を土台により良いものに変えていくという姿勢が常に大切にされてきたということでしょう。まさにチェンジではなくアップデートしているのです。

日本の社会に目を向けると今年も大きな変化がありました。その中で私が興味を持ったのが大学入試の変化です。1990年に始まった大学センター入試は、その前の時代の入試よりも暗記だけでは回答が難しいスタイルでした。しかし、今年から幼・小・中・高の教育の見直しに加え、「先行きが予想しづらいこれからの社会では、知識の量だけではなく、自ら問題を発見し、答えや新しい価値を生み出す力が重要になる」という考えの基、センター試験よりも思考力、判断力、表現力が試される大学入学共通テストに生まれ変わりました。確かに、コロナウイルスによって、答えのない状況での判断が重要になったり、今まではその価値すら想像できなかったユーチューバーという職業が、子どもの将来なりたい職業ランキングの上位にランクインするなど、教育と社会情勢は常に表裏一体といえるでしょう。さらに言えば、あけぼのが長年大切にしてきた保育の中で培おうとしている力、すなわち“忘れてはいけない本質”が大学入試でも試されるようになったということでしょうか。

ある意味、今年度あけぼのでも望んでいたかは別として様々な変化を強いられる1年となりました。この状況において、ひとつの大きな変化は行事の動画配信による子どもの育ちの共有でしょう。近年のテクノロジーの進歩もありデジカメで簡単にきれいな動画の記録を残せる。そして、すぐに動画サイトにアップし、アプリを通じて保護者にシェアする。様々な進歩の力を借りることで、10年前では考えもしなかった形に変化してきています。さらに、懇談会においても保護者が集まって行うことが困難な為、中止ではなく動画での開催となりました。担任の先生達の工夫や努力もあり、保護者の方々からは「対面での開催ができなかったのは残念だけど、動画で育ちがよく伝わりました」というありがたい声を多く頂きました。保育を行う上で、保育実践と同じぐらい大切なのが育ちのシェアです。そういう意味でも大きな収穫になった出来事でした。その中で、一つ気になったのが「仕事で参加できなかったので、動画配信があって助かりました」という声です。確かにお仕事されている方にはありがたく便利なことかもしれません。しかし、懇談会の大きな目標である保護者間の繋がりや育ち合いといった創立当初から変わらない“子ども中心”という価値観の中で“忘れてはいけない本質”がこの変化によって忘れ去られる可能性があることも感じています。それは、お仕事と育児を両立させておられる保護者へのサポートをしないということではなく、保護者と共に子どもを育み続けてきたあけぼのが、その歴史の中で培ってきた大切な価値観なのです。実際に今までも多くのお仕事をされている保護者が仕事に都合をつけて子どもの育ちに必要不可欠な懇談会に参加してくださりました。時にはお父さん達の参加が目立つ時もありました。そして、卒園された後も園での繋がりがその後の育児の助けになっていることもまた事実でしょう。変化に伴って便利になることは非常に大切な視点ですが、どの便利を大切にするのかという見分けえる目を持ち、時に不便が生み出す価値観を大切にする必要があるのではないかと思います。そういう意味でも、今年度の当たり前は来年度の当たり前にはならないのでしょう。

このように時代の変化に合わせて柔軟にアップデートを続けてきたからこそ、今年度様々なことを中止せず、形を変えながら、子どもの育ちを保障できているのかもしれません。もし、そのことが子ども達のより良く生きる力の基礎を育んでいるのであれば、この正解のない世界においても、よりよく変化し続ける姿勢を持ち続けることは正解と呼べるのかもしれません。最近目にした「失敗を恐れてチャレンジしないことが、失敗する準備をしていること」という言葉。共感すると同時に子どもに負けないぐらいのチャレンジ精神を持ってみんなで力を合わせて今後もよりよくアップデートしていきたいと思います。

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学校法人あけぼの学園/社会福祉法人あけぼの事業福祉会